ロンドン・マークス&スペンサー店員の日記

純生のイギリス人を語ります。

スーパー店員は見た・その3

サービス残業。日本独自の労働文化、だと思いますよね。イギリスではどうなんでしょう、その辺り。現場を知る僕が解説を試みてみましょう。
この質問、いきなり答えを出してしまうと、実はイギリスでもサービス残業は存在します。しかもごく普通に。

スーパーのSainsbury’sを例にとりましょう。一番下の立場の店員が昇進して最初に就くのがTeam Leaderの役職です。時給にしてたったの70ペンス程度の昇給ですが、責任度が急に上がります。そして、それを規定の時間内でこなすのは無理ってもんでしょう、という世界に突入します。
担当セクションに課されたノルマ、例えば棚詰めが全て終わるまで帰れません。しかし何しろ下の者達は働きが悪く、しかも自分の終業時間が来たらぴったりに職場を去ります。片付けもせず。となると残った仕事はこのTeam Leaderかセクションマネージャーが残業してこなさなければなりません。それは日本での暗黙のプレッシャーと同じ原理です。

では、実際にどれだけの時間、無償で働いているのかというと、僕の直属のマネージャーだったジャマイカ系の「粋がり」オヤジ、スティーブンや、Team Leaderだったスロバキア出の「負けてたまるか」イバナ嬢は皆の一時間半前には出勤し、帰るのは僕らより大体2時間くらい後。つまり、11時間近く勤労していました。

僕はいつも平社員でしたが、この上司達への同情を禁じ得ず、いつも残って手伝っていました。だって、残された仕事の量が半端なくて、これをやって帰れという会社があまりにも非情な気がして。しかし、店長は更にそれを超える長時間労働をしていますから、店長を責める訳にもいきません。

結局、僕の上司二人にしてみれば、働きの悪い部下達のことが怨めしかったようで、時々Pubに誘われて飲みに行った時に愚痴をたくさん聞かされました。僕的には僕にそういう心情を話してくれたり、ビール飲みながら一緒に憤慨したり、悩んだり、というのが嬉しかったものです。

一方、僕の同僚達は僕がサービス残業することが理解できなかったようです。昇進を望んでいる訳でもなく、残業代が払われる訳でもなく。なのに、なぜ残るの?と。その心情は、いくら説明しても分かってもらえなかったですね。

という訳で、無償の長時間労働は日本だけの話というのは、事実ではありません。少なくともイギリスでは普通に存在します。恐らく他の英語圏でも同じような状況だと想像されます。

実は、日本人が良く言う、西欧ではこんな事はやらない、という主張。西洋人はあくまでプライベート最優先だ、という意見。あれを聞くたびに僕は、ドロドロになりながら勤労している、数多の名も無き普通のイギリス人達の事が思い浮かび、ちょっと腹立たしく思うのです。ましてや日本人独特の美学だという勘違い!困ったもんです。